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2008年3月 9日 (日)

画面を離れよ、紙に出よう。――情報カード今再び―― (2)

■PoIC―― 情報カードの最先端

 パソコン全盛の今日にあって、もはや過去の遺物になったかと思われた情報カード。今でも使いこなしている人はいるのだろうか。そう思って調べてみると、何とより洗練された形に進化した情報カードシステムがあった。それがPoIC(Pile of Index Cards)である。

 PoICシステムの詳細はこちらを御覧いただきたいが、その要点は次の通りである。

5×3判(図書目録カードの大きさ)の方眼カードを用い、京大型カードと同様に1枚1項目で情報やアイデア、記録や行動予定を書き込む。
・カードは「記録」「発見」「GTD (これから行うべき事柄)」「参照」 に分け、それぞれ簡単なアイコンを表題に書き込み、さらに方眼の上端の決まったマス目を塗りつぶしてタグにする。こうすると上からカードの束を見たとき、タグが縞模様になって現れ、検索の目安になる。
・書き上がったカードは分類せず書いた時間順にケースに収納する。後でカードを繰った時も、参照したカードは前に移さず元の位置に戻す。
・ある程度カードが貯まったら、一つのテーマに関するカードを抜き出して、文章を書くのに利用する。それが終わったら、使ったカードはまとめて別のケースにしまっておく。

 このシステムは「知的生産に検索はほとんど必要ない」という認識に基づいて開発されたものである。紙のカードが検索のスピードと正確さでパソコンに劣るのはわかりきったことだから、それならいっそ検索は思い切ってしまい、パソコンにはなかなかまねのできない、カードをランダムにパラパラと繰って思わぬ新発見をつかむことに徹したシステムをめざそうというわけである。

 たとえば目星をつけた古書を1円でも安く買うなら、ネット古書店を検索する方が効率がよいが、予期せぬ掘り出し物を見つけるなら、実際の古書店をあちこち巡り歩く方がよい。 PoICもいわば発見の掘り出し物探しのためのシステムといえるだろう。

■我流PoIC

 PoICでは各人の事情に応じたカスタマイズを積極的に勧めている。もともと扱う情報の質も、情報を整理して何に使うかも、人によって違うのだから、万人にぴったり来る方法というのはない。だからPoICの基本理念を理解した上で、それに杓子定規にこだわらず、自分に合った方法を開発すればよいわけである。本居宣長のいわゆる「師の説にななずみそ」(『玉勝間』)である。

カードの大きさ
 まず使うカードのサイズをどうするかであるが、PoICで使っている5×3判は、京大型カードのB6判に慣れている私にはやはり狭すぎるように思った。それに当時購入したカードや筆記具、カードを入れるファイリングキャビネットもまだ残っているし、過去に書いたカードも相当数たまっているから、それらとの互換性をむざむざ捨てるのはもったいない。そこでまずこれらの眠っていた品々を流用することから始めてみることにした。

タグとアイコン
 これから新規に書くカードは、PoICと同様に「記録」「発見」「予定」(本家PoICでは「GTD」だが、英略語は好みではないので変えた)「参照」のタグをカードの上端につける。 大学生協で売っている京大型カードは、表面は8.5ミリの罫線だが、裏面は方眼になっているから、この方眼を使えばタグをつけることができる。但しアイコンは書かない。 私はもともと図表やイラストを描くのがあまり好きではないので、簡単な意匠とはいえ、いちいちアイコンを書き込むことにすると、そこで筆迷いが生じて思考がストップしてしまう恐れがある。そこで当面アイコンは書かないでやってみることにした。もしそれで不都合が生じたら、書き込む習慣をつけるよう練習すればよいことである。

 またタグの4区分も、PoICのHPに説明はあるけれども、やってみると曖昧なものも結構出てくる。分類しようとするとどっちつかずなものが出てくるという現象を、野口悠紀雄氏は「こうもり問題」と呼び、これを解決する究極の方法として、分類を一切せずひたすら時間順にファイルを並べる「『超』整理法」 を発案した(『「超」整理法』、中公新書、1993年)。PoICもこの理念を応用して、書いたカードは時間順に並べて収納することになっている。タグの4区分はカードを繰る際の目安にするだけであって、これによってカードを分類して配列するわけではないから、1枚のカードに2つ以上のタグがついていても、別に困ることはなかろう。 たとえば原典からの引用を書いた後、それについて気づいたことを書き加えたような場合なら、「発見」「参照」両方のタグをつけてしまえばよい。

日付と時刻
 書き終わったカードは日付を入れ書いた順に並べて収納する。カードに日付を入れるのは、京大型カードを開発した梅棹忠夫氏も言っていることで(『知的生産の技術』pp.56)、私も習慣づけていたが、 PoICでは日付に加えて時刻も分単位で書き込むことを提唱している。これによってカードを並べる順番が確定され(同時刻に2枚書き上がるということはまずない)、カードを外に出してから元の場所に戻すのも容易になるというわけだが、これを実行するのはかなり面倒くさい。机の上で書くなら常に時計がそばにあるが、外で書くような場合、たとえば講演を聴きながら次々とカードを書いていくような場合に、いちいち時計を見て時刻を書き込むというわけにはいかない。完璧に時系列で並べるという理念は、利便性と天秤にかけて、あえて捨てることにした。

 一方以前に書きためたカードについては、当面はそのままで新規のものと別に並べておき、もし参照したり利用したりした場合には、タグをつけて時系列配列の中に編入することにした。

参照
 あるカードの記事をもとにして、別のカードを新たに書いたような場合には、元のカードを参照するよう指示を入れておくと便利である。このような場合、PoICでは参照先カードの日付と時刻を入れておけば、それで参照するカードが特定されるとしている。しかしカードに時刻を書き入れなければ、この方法は使えない。そこで私は参照先カードの日付と、カードのタイトルの最初の3字を代わりに書くことにした。これでも今のところ参照先カードの特定は十分にできている。

復活させてみて
 このような方法でカードシステムを復活させてみたが、結果は上々であった。10年以上のブランクがあっても、体はちゃんと覚えているものである。ひらめきをカードに書きとめ、それを元にアイデアを練るという知的生産が、再び軌道に乗り始めたのである。現にこの記事も、復活後に書きためたカードを元に書いている。

 もし過去にカードシステムを導入した経験があって、取ったカードも蓄積されているというのであれば、まずそれをPoIC風に味付けして復活させることから始めてみるのがよいと思う。しかしカードシステムそのものが初めてという人なら、京大型よりも5×3判の方が始めやすいかも知れない。特に文章を書き慣れていない人には、B6の大きさは広すぎて、何を書けばよいのか戸惑ってしまったり、何とかカードを埋めなければという強迫観念にとらわれて、何も書けなくなってしまうことも考えられる(実際にはカードをきっちり埋めなければならないという決まりはない。1枚のカードに1行、1字でも構わない)。まずは5×3判カードで身近なこと、たとえば一日の行動なり、ガソリンや食料品の値段なり、見たテレビ番組の感想なりを何でも記録して、カード自体に慣れるというのが、カードシステムの入り口としては最適であろうと思う。

 カードに慣れてくると、 次々とアイデアが浮かんでくるようになるが、その多くは仕事に直接関係のないものばかりということもある。自分の関心が那辺にあるか如実にわかるから、それはそれで面白いけれども、仕事に関係のあるアイデアが出てこないとやはり不安になるかも知れない。

 しかしそれも一向に構わないと思う。自分のHPやブログに載せるなり、軽い読み物やエッセイを頼まれたときのネタにするなり、活用法はいろいろある。この作業に慣れておけば、本来の仕事に興が乗ってきた時にも役立てられるはずである。(つづく)

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